卓話の世界

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卓話 2022年5月19日

ネパール山村の少女に教育を~“おなご先生”100人を養成して~

 NPO法人日本ネパール女性教育協会理事長 文京学院大学名誉教授 山下泰子 様 

◆ネパール山村の貧しさ:「夢」を語れない少女たちとの出会い
 私がはじめてネパールへ行ったのは、1982年の暮れから83年のお正月でしたから、今から40年も前のことになります。真冬なのに下半身はだかの赤ちゃん、裸足にゴム草履の子どもたち、吹雪の夜、軒下で寒さに凍えて馬の嘶きのような声を上げていたポーターたち、その貧しさに心が震えました。その後、ゼミ生を連れて14年間ネパール通いをし、村の少女たちが「あなたの夢はなんですか」という問いに答えられないことを知りました。学校へ行っていない少女は「夢」という抽象的なことばを理解できなかったのです。このことが私たちの「ネパール山村の少女に教育を!」という活動の原点です。

◆ポカラプロジェクト:さくら寮で“おなご先生”100人を養成
 2004年に、「日本ネパール女性教育協会」として内閣府からNPO法人の認証を受け、
2006年に、ネパール第2の都市ポカラに「さくら寮」を建て、1年10人、10年間で100人の遠隔地域の女性教員を養成するプロジェクトを開始しました。日本の女子師範学校制度を模した仕組みです。寮生は、ポカラ女子短期大学の教育コースで2年間学び、さくら寮では、日本から指導者が出かけて「豊かな人間性を育む教育」に取り組みました。卒業すると3年間、自分の村の先生になることを義務づけ、教員給料を払いました。

◆“おなご先生”100人の追跡調査から
①さくら寮卒業生のうち、18人が超難関の政府の教員採用試験に合格し、3人が公務員試験に合格しました。調査時における教員就業率73%、一般就業率83%でした。彼女たちは、卒業後すぐ結婚しますが、結婚も出産も教員を続けることに支障がないことがわかりました。

②さくら寮卒業生教員は、村の少女の中途退学・不規則登校を改善することが使命です。親を説得したり、本人に早婚を思いとどまらせたり、学校運営委員会に奨学金支給を要請したりして、延べ212人の少女の就学を助けました。

③さくら寮で学んだ「豊かな人間性を育む教育」を87人が延べ199講座を活用していることがわかりました。

④極西部のヒンズー教の村には、生理中の女性が家から出て生理小屋で過ごさなければならないチャウパディという慣習があります。2017年にチャウパディ慣習の強要は3か月の禁錮/3000ルピーの罰金刑となったのですが、チャウパディ小屋に入らないと神様が怒るという村人の意識を変えるのは至難の業です。変革に取り組むさくら寮卒業生教員も苦戦をしています。

⑤卒業生の最大の関心事は、政府の教員採用試験に合格して教職の安定的な継続をはかることです。ネパールの最重要課題には、「国民全体の教育の質の向上」「少女への教育」「遠隔地域の教育」「現地語での教育」「有能な小学校教員の養成」「教師の地位と待遇改善」といった教育案件を彼女たちは挙げました。

◆今後の取組み
①さくら寮卒業生教員の最大の関心事である政府の教員採用試験受験をサポートします。
②ダサインの長期休暇を使って地域別のフォローアップ研修を行います。
③さくら寮卒業生教員が、「豊かな人間性を育む教育」を地域に普及することを奨励します。
④カピルヴァストゥとジュムラのフィーダーホステル卒業生が教員になるのを支援します。
⑤ネパール各地のフィーダーホステルが女子師範学校になるようネパール教育省に働かけます。

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