卓話 2019年02月28日

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日本の安全保障について


元陸上自衛隊1等陸尉
松本 暁彦 様

1 序 論
「人は誰しもが全てを見るとは限らない。大抵の人は自分が見たいと思う現実しか見ない。」有名なユリウス・カエサルの名言である。これは安全保障において必ずぶつかる壁である。即ち、現状の繁栄に目を奪われ、ほとんどの人が戦争は起こらないと信じ、適切な準備を怠り、あるいは準備の妨害行為にすら及んでしまう。しかし、実際に有事が起きた時、強者に虐げられる悲惨な状況を回避するためには、見たくない現実を見て、何事にも備えなければならない。
本卓話では、見たくない現実を安全保障研究の観点から説明し、日本の安全保障への理解を深めてもらうものである。
2 国際政治学・安全保障研究について
戦争の原因は、国際政治学、特に安全保障研究において議論されている。例えば、暴力性を有する人間の本性そのものに原因があるのではないか、またアナーキー(無秩序)という国際関係での弱肉強食の世界であることに原因があるのではないのか等、生物学的見地から国際関係構造の見地にかけて幅広く研究されている。そして、ここで一致することは、「人類は戦争から逃れられない。」ということである。
3 米中貿易戦争について
トランプ大統領の米国と習近平主席の中国との間で、2018年から米中貿易戦争が行われている。中国の現在の狙いは「中国製造2025」で代表されるように、世界における軍事力・経済力・外交力・情報力の優越の獲得である。最終的には、これらの総合国力によって、西太平洋でのパワーバランスを崩し、米国にとって変わって覇権を獲得するものである。
この中国の攻勢に対して、現在の覇権国家である米国が危機感を抱き、その企てを打破しよう反撃を始めた。これは「見えない戦争」とも言われ、日本、ロシア、朝鮮半島、そして世界中を巻き込んだものとなっている。現実問題として中国の軍事力の巨大化は、西太平洋地域内の戦力均衡バランスを崩しつつあり、尖閣諸島問題も含め日本の安全保障環境は悪化の一方である。
4 日本が今後どうあるべきか
日本は、米中貿易戦争、米中の覇権争奪の影響から逃れられることはできない。むしろ今後の日本の行動が、今、そして将来における西太平洋の覇権の行方を左右するものである。
現在、日本国内ではそのような危機感は無いに等しい。しかしながら、「人類は戦争から逃れられない。」という現実を直視し、この問題に対して真摯に立ち向かわなければならないのである。