卓話 2015年12月24日

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癌の予防と体に優しい癌の治療


大阪府済生会吹田病院 名誉院長
岡上 武 会員

 日本人は生涯2人に1人は癌に罹患し、3人に1人が癌死する。日本人の死因のトップは癌で、30%が癌で死亡する(平成25年)。したがって癌の予防、早期発見・早期治療は健康寿命の延長に極めて重要である。本講演では誰にでも出来る癌の予防・早期発見法とともに、目覚ましく進歩した体に優しい癌の治療法につき述べる。癌死のトップは肺癌で大腸癌・胃癌と続き、肝臓癌・膵臓癌がほぼ同じであるが、男女で当然差があり、女性は大腸癌が1位、乳癌が4位である。
 予 防 
 肥満は肝を始めとして種々の臓器の発癌率を高め、喫煙は肺癌の危険因子で、肥満の解消、禁煙で発癌率は低下する。胃癌患者の90%はヘリコバクタ・ピロリー菌(HP)に感染しており、肝癌の60%はB型やC型肝炎ウイルス感染に起因しており、HP除菌(1週間の内服で可)、ウイルス肝炎を治療すれば、胃・肝臓からの発癌の多くは防止できる。年1-2回検便を行い、便潜血反応陽性であれば大腸内視鏡検査を受け、早期癌なら治療は簡単である。肥満や糖尿病患者で肝機能障害のみられる場合、多くは非アルコール性脂肪肝炎(NASH)で、このような患者や肝炎ウイルス感染者では年1-2回腹部超音波検査を受け、癌の早期発見に努める。女性は40歳を過ぎると乳癌、子宮癌の健診を受ける事を推奨する。男性に多い前立腺癌は前立腺癌マーカー(PSA)を測定し、早期発見が可能である。
 癌の治療 
 大きくは内科的治療(内視鏡的治療など局所療法、化学療法、免疫療法など)、外科的治療、放射線治療に分類されるが、近年消化器癌や肝臓癌では早期癌の多くが開腹することなく内視鏡的切除、あるいはラジオ波焼却療法(RFA)で完全に治療できる。特に、胃癌、大腸癌、一部の食道癌は早期に発見されると外来あるいは数日の入院で内視鏡下に治療する(内視鏡的粘膜切除術:EMR、内視鏡的粘膜下層剥離術:ESD)。また肝癌は直径3cm以下であれば開腹することなく腹部超音波ガイド下に小さな針を癌部に穿刺し、癌部を焼く(焼灼)ことで完治する(ラジオ波焼灼療法:RFA)。大きさや場所によってこのような治療法を選択できない場合、手術や放射線治療、化学療法を選択するが、最近消化器癌の多くは開腹することなく、お腹に直径1cm余りの穴をあけ、そこから腹腔鏡を挿入し、腹腔鏡でお腹の中を見ながら別に挿入した器具を操作し癌を切除する(腹腔鏡下手術)。出血量が少なく、術後の回復も早く、早期に退院できる。肺癌、前立腺癌、乳癌などでも低侵襲手術が広く行われている。放射線治療機械の進歩も目覚ましい。また抗がん剤も分子標的治療と言う、新しい治療薬が続々開発され、癌すなわち死の時代は遠ざかりつつある。本講演ではこれらの実際を述べる。