卓話 2021年03月25日

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“アルコールとタバコ” どちらが体に有害か?


大阪府済生会吹田病院 院長
島 俊英 様

 飲酒による健康障害というと、健康診断で肝機能異常を指摘される事が多く、肝硬変で命を落とすアルコール依存症の人もいるため、肝臓の病気というイメージが強いように思われる。しかし、飲酒は、肝臓病以外に膵炎、心臓・脳の病気、うつ病、自殺、認知症や、各種癌の発生の原因になる。また、同じ嗜好品である喫煙も、各種癌の発生をはじめ、動脈硬化、脳卒中、心筋梗塞、肺気腫、気管支喘息などの病気の原因になることが知られている。以上のように、飲酒と喫煙はともに我々の体にさまざまな健康障害を引き起こす。それでは、どちらが人体により有害であろうか? 本講演では癌を発生させる危険度に焦点をあててアルコールとタバコの健康障害を比較し、さらにその社会的影響についても紹介する。
まず、飲酒は肝臓の障害をよく引き起こすが、1日に1合程度の少量飲酒では肝臓への障害はなく、癌を発生する危険度もほとんど増加しない。しかし、のど・食道の癌の危険度は毎日1合の少量であってもやや増加する。一方、タバコには毒性のあるニコチン以外に60種の発癌物質が含んでおり、エタノール単独の飲酒よりも毒性が強く、癌を発生する危険度を1.6倍に増加させる。また、肺癌については少量の喫煙(1~4本)でも2倍に危険度を増加させると言われている。
経済に対する影響を考えると、わが国の市場規模はアルコールが約3兆6,000億円、タバコが約2兆8,000億円とアルコールの方が経済に対する貢献度が大きい。それに対し、乱用に関連する医療費はアルコールが約1兆1,000億円、タバコが約1兆6,000億円と、タバコによる経済的損失の方が大きい。そのためか広告に関して、アルコールよりもタバコに対する規制の方が厳しくなっている。以上の事から、1日1合以下の飲酒量であれば、アルコールの健康障害は喫煙よりも軽度である。いずれにしても、何事も節度が重要と言える。