卓話 2016年04月07日

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小児科のお医者さんですか?
いいえ、赤ちゃんのお医者さんです!


大阪府済生会吹田病院
新生児集中治療室科兼小児科科長

小川 哲 様

 医学の領域に新生児学という分野があるのをご存知でしょうか。一般に赤ちゃんに対する医療は小児科の一部だと考えられていますが、実は全く違う領域です。何故なら赤ちゃんは小さな子どもではないからです。
 学生時代に子どもたちとかかわる機会があり、小児科医を目指しました。しかし、運命のいたずらによって新生児医療に携わることになり、赤ちゃんとその家族たちによって導かれ、いまでは新生児医療から離れられない身体になってしまいました。今日はその新生児医療の話をします。
 新生児科医療の対象は病的な赤ちゃんです。大きく分けて1)未熟児、2)新生児仮死、3)適応障害、4)奇形症候群、の4つに分けられます。赤ちゃんを治療するための施設をNICU:新生児集中治療室といいます。大阪にはNICUをもつ病院が28施設もあり、40年も前から相互援助システムも確立しています。大阪は赤ちゃんにとっては恵まれた場所なのです。
 さてお母さんのお腹の中で赤ちゃんは安全と思われていますが、実際はかなり酸素が低い状態にいます。(これに対して赤ちゃん自身は赤血球の数を増やして対処しています。この赤血球が多い状態を多血と云い、これによって赤ちゃんは赤く見えます。)また、日本には「お産は安全」という神話があります。昔や外国のデータをみると、お産にはリスクが伴っていることが分かります。でも、確かに日本の赤ちゃんは世界一死にません。安全神話は世界一のレベルをもつ日本の周産期医療が介入してできた話なのです。これだけの医療レベルを持っているにもかかわらず、日本では少子化が進んでいます。もったいない話です。
 出生数が減少しているなら、新生児科医は失業ではないかと心配する向きもありますが、2,500g未満で生まれる低出生体重児の割合は年々増えています。そして世間が思っているほど未熟児=障碍ではありません。合併しやすい病気はありますが、多くの未熟児は問題なく普通に暮らしています。
 一方で生まれるときにしんどくなる児が多くいます。そもそも出生すること自体が赤ちゃんにとっては大変過酷なものなのです。特に出生時にちゃんと泣けないと赤ちゃんには胎児循環が遺残する可能性があり、非常に厳しい状況になります。
 かつて、お産は自宅で産婆さんに取り上げられるのが当たり前でした。しかし、昭和30年頃からは医療機関でお産が行われるようになってきました。それまでは死産扱いにされてきた出生時に大きな異常がある赤ちゃんたちを助ける医学も進歩してきました。しかし未だに、それに否定的な人たちも少なからずいるのも事実です。
 様々なかたちで生まれてきた掛け替えのない命を救うため、頑張っている「新生児科医」という医師たちがいることを、これを機会に知って頂けたら幸甚です。